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2006年3月25日 (土)

半島を出よ

村上龍は前から好きな作家の一人だ。猟奇的なものや性倒錯ものから政治経済もの(?)子供向け職業指南本まで氏の取り上げるテーマはかなり幅広い。

その中でもいわゆる「政治経済もの」が好きである。古くは「愛と幻想のファシズム」とかであり、比較的最近の作品では「希望の国のエクスダス」あたりであろうか。

それぞれはフィクションであるが、その時々の日本や世界の政治経済状況が反映されていてそれぞれに面白い。

「愛と幻想のファシズム」などは今読み返すと少し劇画的な気もしないではない。でも「希望の国のエクスダス」などのリアルさは氏の綿密な取材と現代的教養の裏打ちによるものだと思う。

これら作品群を引き継ぐ最新刊「半島を出よ」を最近読了した。近未来のある日、北朝鮮のコマンドが福岡を占拠する。その状況に日本政府も日本人の誰もがまともに対応することが出来ない。

そしてそれと対比するように描かれる北朝鮮の兵士たち。彼らの置かれているあまりに苛酷な状況と、全てが弛緩し切ったこれまた異常な現代にっぽんの状況がこれでもかとばかりに繰り返し描かれる。

途中少し冗長過ぎるところもなくはないが、最後のホテルでの戦闘シーンなどそのリアルさにはすさまじいものがある。氏の想像力と表現力には舌を巻く。

そして最後に福岡と日本を(かたち上)救うのは日本のマイノリティたちであった。この設定は村上龍作品のどの作品にも通呈する根幹だと思う。ただし今回はあまり共感を呼べるマイノリティでないのがいつもと少し違うところか。

「希望がない」国で「希望」を求めた「希望の国のエクスダス」と同様、この小説にも「希望」を見出せない状況が描かれている。そして北朝鮮のような状況と対峙するとき、日本は日本人は一体どうするのか?

いやどうにもならないだろう、と作品は主張している。だからこそ自衛隊を!とか核武装を!とかいう主張ではもちろんない。しかし世界に対する無知さ加減とか感度の悪さに対する日本の姿は痛烈である。

ただし批判しているのでも皮肉っているのでもないところが、いつもの村上龍的バランスであろう。それが政治的なトピックスに取り上げられない所以。しかし北朝鮮をこんなにリアルに描いている現代小説もないのではないか。

上下巻の超大作ではあるが、一読の価値あり。カタルシスはイマイチだったが、彼のいう「情報小説」としての面白さは存分に楽しめると思う。読書になんらかの意味を求める人向けですかね。

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